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副腎皮質機能低下症(アジソン病)
副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは副腎皮質の85-90%が破壊されてしまい、生体維持に重要なグルココルチコイド(コルチゾール)やミネラルコルチコイド(アルドステロン)というホルモンの生成・分泌が減少してしまう疾患です。
犬の副腎皮質機能低下症の発症年齢は平均4〜5歳とされています。
発症までの流れ
脳の視床下部で生成されるCRHと呼ばれる物質からグルココルチコイドやミネラルコルチコイドといったコルチコイドが作られます。
そのコルチコイドが脳の下垂体からACTHと呼ばれる伝達物質の分泌を促します。さらにそのACTHが副腎皮質でコルチコイドの分泌を促します(図1)。
血圧や血糖値のコントロールなど、コルチコイドは生命の維持において重要な役割を担っています。
本疾患は、①副腎皮質からのコルチコイドの分泌不足が原因となる”原発性”(図2)、②CRH・ACTHといった伝達物質の脳内からの放出不足による”二次性”(図3)があります。自然発生のものは犬であまりなく、猫では更に稀です。一方で、自然発生の副腎皮質亢進症(クッシング症候群)と呼ばれる疾患治療の過程で副腎自体が破壊されることで発症してしまう医原性のアジソン症のケースが度々確認されています。
原発性と二次性の原因となるものはそれぞれ以下の表ようなものがあります(表1)。

図1.副腎皮質からのホルモン分泌の過程(正常時)
図2.副腎皮質からのホルモン分泌の過程(異常時・原発性)
図3. 副腎皮質からのホルモン分泌の過程(異常時・二次性)
表1.原発性と二次性のアジソン症を引き起こす原因
犬では若齢~中齢の雌に多く、犬種・体形による差異はないと言われ、副腎皮質の90%以上が破壊されることで発症します(猫は85%以上ですが、そもそも発生は非常に稀で40例程度の報告しかありません)。破壊は徐々に進行するので、早期には調子が良くなったり悪くなったりし、ストレスがかかると対応できず調子が悪くなります。
通常は嗜眠、食欲不振、体重減少が徐々に進行していき、激しい症状としては虚脱が見られます。また、消化器症状としては、コルチコイドの分泌不足による嘔吐、下痢、腹痛が見られ、頻回の尿も見られます。そして身体検査所見としては虚脱、起立不能、脱水、頻脈あるいは高カリウムが激しい場合には徐脈がみられることがあります。一般的には破壊される副腎から放出されるグルココルチコイド、ミネラルコルチコイドの本来の作用が消失することによる症状が多く見られます(表2)。

表2.グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド不足時の臨床症状
表3.ACTH刺激前後のコルチゾール基準値範囲
確定診断にはACTH刺激試験を実施します。ACTH注射(コートロシン注射)前の通常状態の時(刺激前)と、注射の30分後、60分後の各時点で採血をし、それぞれで血液中のコルチゾール値を測定するというものです。正常ではACTH刺激後のコルチゾール値はかなり上昇しますが(表3)、本疾患では基準値の下限以下の反応となります。特に刺激前後のコルチゾールが共に<2μg/dlであればより診断的です。

一般的に積極的な輸液療法を行うことで、血液量の正常化、腎前性高窒素血症の治療、カリウムの排泄促進、組織潅流でのアシドーシスの補正が可能となります。また、分泌されなくなったコルチコイドの代用としてプレドニゾロン(ステロイド剤)の定期的補給を行います。

予後
発症後は完治が望めず生涯にわたる継続的な治療が必要となりますが、適切に継続していれば寿命まで生きることが可能です。また、猫でも一般的に犬よりも治療反応が遅いものの、腫瘍が原因でなければ予後は良好となっています。

執筆担当:安部凱