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精巣腫瘍と肛門周囲腺腫の併発
●精巣腫瘍とは
未去勢の犬において多発する腫瘍です。7歳齢以上で発生することが多く、雄犬の全腫瘍のうち5‐15%を占めるとされています。猫での発生は稀です。精巣腫瘍は、腫瘍細胞の種類により大きく分けて次の3種類が挙げられます。

① 精上皮腫(セミノーマ)
精子の前段階である精母細胞や精細胞が腫瘍化したものです。多くは良性腫瘍ですが、リンパ節や他の臓器に転移することもあります。稀に雌性化の症状が現れます。
② セルトリ細胞腫
精子の形成に関与する、セルトリ細胞とよばれる細胞が腫瘍化したものです。腫瘍細胞からのホルモン分泌により、動物が雌性化することがあります。さらに一部は過剰なホルモン分泌によって骨髄機能が抑制され、貧血や白血球減少、および血小板減少が起こります。リンパ節や諸臓器に転移することがあります。
③ ライディッヒ細胞腫(間質細胞腫)
一般的に良性で、転移は極めて稀な腫瘍です。雄性ホルモンの不均衡を引き起こし、前立腺肥大や肛門周囲腺腫を随伴することがあります。

精巣腫瘍は潜在精巣において発生しやすい病気です。潜在精巣とは、精巣が陰嚢内に下降せず、腹腔内や皮下に停留した状態を指します。通常、犬では生後30日頃に精巣下降が完了し、2か月齢以上でも精巣が下降していない場合に潜在精巣が疑われます。潜在精巣の犬における精巣腫瘍の発生率は、正常犬の13.6倍高いとされています。


●肛門周囲腫瘍とは
肛門周囲に発生する主な腫瘍として、肛門周囲腺腫、肛門周囲腺癌、および肛門嚢アポクリン腺癌の3つが挙げられます。このうち肛門周囲腺腫は良性腫瘍であり、高齢の未去勢雄で多く認められます。一方、肛門周囲腺癌と肛門嚢アポクリン腺癌は悪性腫瘍であり、不妊手術に関係なく雌雄ともに認められます。

肛門周囲腺腫は未去勢雄での発生が多いことから、未去勢で肛門周囲腺腫瘍が疑われた場合は肛門部の腫瘍切除と精巣摘出を同時に行うことが一般的です。



●症例
11歳 トイプードル 未去勢雄
 
肛門部のできものを主訴に来院されました。下の写真のように肛門6時方向において直径1cmほどの腫瘤が認められ、細胞診検査を実施しました。細胞診検査の結果と、未去勢である事から肛門周囲腺腫が疑われました。
また、精巣が陰嚢内に下降していなかったため腹部の超音波検査を実施したところ、腹腔内に右精巣、腹部皮下に左精巣を認めました。右精巣は明らかに腫大しており、精巣腫瘍が強く疑われました。左精巣は軽度の腫大が認められました。仮に右精巣腫瘍がセルトリ細胞腫の場合は骨髄抑制が生じるおそれがありますが、幸い血液検査において異常は認めませんでした。また、他臓器への腫瘍転移も認められませんでした。
治療;
外科手術による肛門周囲腺腫切除および精巣摘出を行いました。下の写真は精巣摘出時に撮影したもので、左が左精巣、右が右精巣です。左精巣は正常に近い形態を保っていましたが、右精巣は大きく腫大し、表面はごつごつとした不整な形をしていました。
病理診断;
切除した肛門周囲の腫瘤と精巣腫瘍の確定診断は、病理検査によって決定します。外部機関に病理検査を依頼したところ、肛門周囲の腫瘤は良性の肛門周囲腺腫および過形成、精巣は左が精上皮腫、右がセルトリ細胞腫と診断されました。

経過;
手術および術後の経過は良好であり、入院期間中は抗生物質および鎮痛薬の投与と、肛門周囲の洗浄を行いました。肛門部は汚れやすいため、感染を防ぐために1日2回の洗浄が必要となります。退院後、術創部が離解することなく予定通り抜糸することが出来ました。
摘出した精巣は病理検査により悪性腫瘍と診断されたため、今後は定期的に転移の有無をチェックする必要があります。



●まとめ
肛門周囲腺腫は去勢していない雄での発生が多い病気です。精巣腫瘍は精巣下降していない潜在精巣での発生が多く、6∼7歳頃から腫瘍化する可能性があります。本症例は11歳齢であり潜在精巣を認め、左が皮下陰睾、右が腹腔内陰睾でした。左右精巣はそれぞれセルトリ細胞腫、精上皮腫と診断されたため、定期的な検査により転移の有無を確認する必要があります。肛門部の腫瘤は肛門周囲腺腫であり、去勢を行ったため肛門周囲腺腫の再発の可能性は低いと考えられます。

今回の症例で腫瘍随伴症候群は認められませんでしたが、セルトリ細胞腫による骨髄抑制が起きた場合は輸血が必要となり、予後が悪いことがあります。
精巣腫瘍および肛門周囲腺腫の予防法としては去勢手術が有効です。去勢手術にはメリットとデメリットがありますが、潜在精巣は特に腫瘍化リスクが高いことから精巣の摘出が推奨されます。以下に去勢のメリット・デメリットをまとめます。


<去勢のメリット>
 ・精巣腫瘍、および雄性ホルモンが関与する病気(前立腺肥大、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニ
  ア)を予防できる。
 ・攻撃行動や尿マーキング、マウンティングなどの問題行動の予防や改善ができる。

<去勢のデメリット>
 ・繁殖できなくなる。
 ・太りやすくなる。

去勢および避妊手術は年齢に関係なく実施することが可能です。ご質問、お悩み等ございましたら、お気軽にご相談ください。





執筆担当:獣医師 佐藤玲奈
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