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苦手な方はご注意ください。

猫の骨盤骨折(17歳の高齢猫)
今回は猫で比較的多い骨盤骨折についてです。骨盤は後肢と体幹(背骨)をつなぐ骨であり、後肢にかかる体重の負荷を体幹に伝える骨でもあります。大腿骨から寛骨臼と呼ばれる窪みに力が伝わり、腸骨という部分を通り、仙腸関節というところを経て、仙骨という背骨の骨に力が抜けていきます。
正面から見た骨盤です。寛骨臼から腸骨、仙骨へと力が伝わります。
横から見た骨盤です。丸い窪みが寛骨臼、右側に腸骨、仙腸関節と続きます。黄矢印の先には仙骨があると仮定しています。
骨盤は通常の長幹骨(四肢の骨)と異なり、写真のように箱型の形状をしているため、1箇所で折れるケースは少なく(若い子ではあります)、少なくとも2カ所以上折れてしまうことが多いです。しかし、折れている部分、全てを治す必要があるわけではありません。先ほどの黄色い矢印がうまく機能していれば、後肢を使っての歩行が可能となります。
つまり、寛骨臼の骨折(ここは関節内となるため、きっちりとした整復が必要となります)、腸骨の骨折、仙腸関節の骨折、が最も重要な部分となります。今回ご紹介する症例はこの3箇所が全て折れてしまっていたタイプです。
症例は17歳9ヶ月と高齢の猫で、交通事故にあってから左後肢を挙上するとのことで紹介・来院されました。交通事故では骨折はもちろんですが、先に呼吸や全身状態に異常がないかの検査が重要となります。この子はすぐにCT撮影と血液検査を実施したところ、肺の一部に気胸が認められ、貧血も確認されました。また、骨盤に関しては左の寛骨臼、腸骨の粉砕骨折、および、右の仙腸関節亜脱臼が確認されました。すぐに輸血を実施しつつ、3Dプリンタにて骨盤を作成し手術計画を立てました。
CTによる3D画像です。腸骨、恥骨結合、仙腸関節に問題がありますが、この場合最も重症かつ重要なのが腸骨粉砕骨折と、仙腸関節亜脱臼です。
すぐに3DプリンタでCTデータから模型を作成しました。左側の大腿骨と骨盤が分離してしまっています。
元はこのような形であったであろうと思われる形状を想定し、そこにあらかじめプレートを設置、ベンディング(捻ったり曲げたりすること)を実施しました。手術計画として、高齢であることから短時間での手術を考え、腸骨の固定及び、仙腸関節にロングボルトと呼ばれるピンを挿入し亜脱臼を固定することを考えました。
術後のX線です。そもそもが粉砕骨折で完全な整復は困難であり、ロッキングプレートと呼ばれるプレートを用いて、架橋プレートを実施しました。
横から見たレントゲンです。骨盤の広さも重要で、あまりに狭くなってしまっている場合には排便困難となり便秘となってしまうため注意が必要です。今回、骨盤腔はしっかりと確保できているため、問題ありませんでした。
かなりの高齢で気胸もあり貧血もありましたが、輸血や、鎮痛剤をしっかりと使い鎮静麻酔を減らすことで無事問題なく覚醒しました。
術後1週間はICU内で安静に過ごし、退院となりました。術後1ヶ月でやや跛行が残るものの、外に行きたくてしょうがないという状態ということでした。

どこか痛がっている、足をあげてしまう(挙上)、けんけんする(跛行)、などあればご相談ください。また、高齢で麻酔がかけられないというケースでも麻酔可能な場合があります。当院では麻酔科があり、リスクの高い症例では数人で麻酔を実施しますので、ご相談ください。

執筆担当:獣医師 磯野
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