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免疫介在性溶血性貧血(IMHA)
体内で起こる免疫の異常活動により赤血球が破壊されてしまう病気、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)についてご紹介します。こちらは犬で発生の多い疾患で、猫では報告数は少ないとされています。
聞きなれない難しい名前ですが、実際の臨床現場での遭遇率は比較的高く、メジャーな病気のひとつです。その一方で、発病からの経過スピードも速く、治療が遅れたり、そのまま放置してしまうと、命の危険度が高い、いわゆる救急疾患に分類されます。
初期症状としては貧血に伴い、歯茎など粘膜が白い、元気・食欲がない、熱感がある、血尿、黄疸(皮膚や粘膜が黄色くなる)などがあげられますが、はたから見てわかりにくい症状や単純な体調不良ともとれる症状もあり、注意深い観察が必要とともに、些細な変化でも軽視しないことが大切です。
IMHAは特発性(原因不明で突如発生する)と続発性(血液がんや全身疾患、ウイルス感染などに併発する)に分けられますが、犬では特発性が主と言われています。そのため、根本的な原因に関してはわかっていないことが多いのが実際です。
好発犬種はマルチーズ、プードル、シーズー、コッカー、アイリッシュセッターなどがあげられ、さらに雌に発生が多いとされていますが、その他の犬種での発生も十分可能性はあります。
端的に言うと、自身の抗体による赤血球の破壊(→溶血)が異常に亢進してしまい、結果重度の貧血となる病気です。溶血のタイプにより血管外溶血と血管内溶血に分けられます。前者は赤血球表面に抗体や補体(抗体に結合する免疫因子)が働き、脾臓や肝臓にてマクロファージ(白血球の一種:免疫細胞)に貪食されて破壊され、後者は血管内で補体が活性化し、赤血球表面に直接穴があいて破壊されます。
診断は確定・支持・疑いの3段階に分けられており、症状や検査結果と合わせて評価していきます。
【免疫介在性兆候】
・自己凝集:赤血球表面についた自身の抗体が橋となり赤血球の塊をなす
・球状赤血球の増加:破壊された赤血球膜の穴から水分が入り、扁平→球状となる
・直接クームス試験:赤血球表面に付着した抗体や補体を検出する
上記2項目に陽性が認められた場合
また、自己凝集が陽性かつ
【溶血兆候】
・高ビリルビン(溶血産物):肝疾患や閉塞性疾患を認めない高ビリルビン
・血色素尿:壊れた赤血球内の色素が尿に混じる
・赤血球ゴースト:赤血球膜が破壊され中身が溶け出したように観察される
上記1項目以上が認められた場合はIMHA確定となります。
免疫介在性兆候1項目かつIMHA以外の溶血疾患(寄生虫感染・玉ねぎ中毒など)が否定的な場合はIMHA支持、溶血兆候のない場合はIMHA疑いと分けられます。
実際には、
貧血を確認

溶血性貧血か?:再生不良(赤血球が作られない)や消費亢進・出血ではないか

免疫性溶血か?:寄生虫性、中毒ではないか

免疫性兆候の確認:球状赤血球、自己凝集、クームス検査陽性
といった流れで貧血の分類を行い診断していきます。
次に治療についてです。
免疫機構の過剰暴走によるトラブルですので、その免疫を抑えていく治療が主となります。
1.ステロイド(免疫抑制量)
2.免疫抑制剤:シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなど
この2つを主軸として治療を組み立てていきます。
基本的には初期治療としてステロイド単剤での治療効果を1週間ほど見ていきますが、この病気の厄介なところは、進行スピードが速い、ステロイドの効きが悪いケースがあるというところです。ですので、多くの場合はステロイドと免疫抑制剤を初期から併用して備えます。また、ステロイドは即効性があるのに対し、免疫抑制剤は血中濃度が安定するまで2-4週を要します。このことからも早期に免疫抑制剤を併用するメリットが大きい場合があります。
3.ヒト免疫性グロブリン製剤
ヒト由来のガンマグロブリンを投与し、赤血球の破壊を直接的にブロックする療法です。効果は早く高いとされますが、副作用的にアレルギーや凝固亢進などが懸念されるため、ステロイドや免疫抑制剤の反応がどうしても乏しい場合や、進行が速い場合の選択肢として用いられることが多いです。
4.輸血
発病時すでに貧血が重度の場合や、上記治療も持ってしても溶血が上回り貧血が進行していく場合は、血液量を確保するため緊急的に輸血を行うことが多いです。時には複数回の輸血が必要になることもあります。根本解決となる治療ではありませんが、その時の命をつなぐためにはとても重要な処置です。
5.抗血小板療法
IMHAの合併症として播種性血管内凝固(DIC)と呼ばれる病態があります。免疫活性により凝固や止血機構に異常がでるため、血栓や出血傾向となり、多臓器不全など予後不良となる可能性が高まる非常に危険な病態です。IMHAでは凝固因子の一つである血小板が働き、血栓傾向となることを懸念して、ヘパリンやリバロキサバンといった抗血小板療法を加えるケースが多いです。
6.脾臓摘出
脾臓において赤血球の破壊と抗体の産生が行われているため、その場所をなくす、といった目的で選択されます。ですが、摘出処置そのものが麻酔下での開腹手術であり、麻酔耐性や体力・出血の問題などリスクの高い方法であることから、再発を繰り返す場合など最終手段として選択される印象があります。
治療に使用される免疫抑制剤各種。錠剤・カプセルなど様々。
上記治療の効果判定を数日から数週かけて行い、徐々に貧血が改善され、安定するのを目標とします。初期治療中は集中管理が必要なため、入院治療を提案する場合が多いです。貧血が安定した後はステロイドや免疫抑制剤を数か月単位で少しずつ減量し、再燃がないかをモニタリングしながら定期通院にて経過をみていきます。最終的には半年以上をかけてすべての投薬を終了、完治を目指しますが、最小容量で投薬を続ける場合もあります。また、寛解後も定期的な検診で再燃がないかのチェックを推奨します。 上記にもありますが緊急的に輸血が必要となる場合も多く、当院でも多くのわんちゃん、飼い主様にご協力いただいております。心より感謝申し上げます。 改めて、IHMAは急性に発症する緊急度の高い重症疾患です。しかし、早期に対応が出来れば助かる可能性も上がります。貧血傾向など、少しでも気になる症状のある際はお早目にご相談ください。 執筆:獣医師 川﨑優梨